第2章(9)セルフマッサージを響かせる

 2019年の日本東洋医学会総会において経穴セルフマッサージを用いた疼痛管理について報告した。鍼灸については漢方薬よりずっと早く欧米と中国から多くの論文が発表されエビデンスの蓄積が進んでいる。日本漢方で鍼灸を併用する医師は多くないが、ブラックジャック世代の私は幼少期から興味のある分野であった。

 10年前から漢方薬を飲み始め、咳、下痢、倦怠感、肥満は良くなったものの、頭痛と腰痛は少し残っていた。さらに四十肩で右肩が上がらなくなり、様々な漢方薬を試しても治ることはなく、月に一回程度NSAIDsを飲んで様子をみるような状態だった。鍼灸を学ぶいい機会と考え、各地の鍼灸院を訪ね歩き、自分でも注射針で刺激を与え始めた。まずまずの手応えを感じた中で、出雲の鍼灸院で教わったのは「漢方薬の先生は手で触れる四肢の末端まで漢方薬で治そうとする。内臓は漢方薬、四肢の痛みは鍼灸でいいんじゃないか」という言葉だった。全身に漢方薬を行き渡らせて、詰まりを鍼灸で取り除く、こんな感じが良いのではないかと考え、エキス剤での漢方薬処方と注射針でのトリガーポイント経穴刺激併用を始めてみた。ところが患者さんは針を嫌う。漢方外来で鍼治療を希望することはないのである。「漢方外来で迷走神経反射と起こしてもなあ、外来で真似事の鍼治療してショックになったりしたらシャレにならん」と悩むようなった。また大学病院に通う高齢の患者は抗凝固、抗血小板薬を飲んでいることが多く、鍼治療には一定の出血リスクがあることも問題だった。

 そこで思いついたのが指圧マッサージである。寺澤先生が指圧の本を出していること知り色々と試してみた。残念ながらあまり響かず、効いてこない。そんな中で偶然うまくいったのが自分が出雲の鍼灸院で受けていた「運動鍼」を真似て指圧しながら関節を動かしてもらう、というやり方である。

 私が考える漢方と先端技術が最も融合している分野はアスリートの領域である。サンディエゴのダルビッシュ有が当番前にせんねんきゅうを使用していることが話題になったが、オリンピックやプロスポーツ選手はエビデンスのない世界で新たな知見を模索し良さそうなものはなんでも取り入れる。ドーピングのできないプロスポーツでは鍼治療を行う選手が多く、刺したまま関節を動かす運動鍼を取り入れることがある。このやり方は比較的経穴に当たりやすく響かせやすい。外来で関節を動かしながらの経穴指圧を指導し、毎日3-5回患者自身に指圧マッサージをやってもらうのである。

 鍼灸マッサージは鎮痛に一定の効果があり、問題は施術と施術の間の疼痛である。漢方薬は毎日薬を飲むことで時々巡りを戻せるが、鍼灸ではそうもいかない。自分でマッサージして響かせ巡らせる方法を覚えれば、毎日の痛みは随分と楽になるはずだ。


参考文献 寺澤 捷年 , 津田 昌樹  絵でみる指圧・マッサージ (JJNブックス)

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