第2章(10)散歩と瞑想

 痛みを鎮めるには鎮痛剤より自律神経の制御が良い。それに気づくまでに多くの副作用を経験した。胸部手術を受ける患者は長年の喫煙でとても「脆く」なっている。全身炎症のある生体は慢性の血管炎であり、腎臓や肺の毛細血管が脆く、出血や血栓を起こしやすい。そういった生体に西洋薬はきつく、破綻しやすい。短期間ならなんとかしのいでも、長い間にたくさんの薬剤を飲むとしんどくなってくる。西洋薬の副作用と思える出血で死にそうになる患者を診るたび、もう少し別の方法はないかと考えるようになった。

 漢方薬や鍼灸で治療するのももちろん良いが、黄帝内経によると病気を治すような術を施すのは名医と言えない。患者自身で体調を制御できるように指導するのが名医であり、日本漢方でいう「養生」が大切なのである。

 自律神経の調整において一般に考えられているよりもずっと効果を実感できるのが散歩と瞑想である。漢方には「通じざれば痛む」という言葉がある。血流、リンパ流、神経系はお互いネットワークを組んでバランスをとっており、どこかに滞りができるとその部分に痛みを生じる。これを気の滞り「気滞」と呼び、滞った部分に痛みが出やすい。この部分を巡らせるには、歩いて筋肉を動かして気を巡らせ、瞑想をして目からの情報をシャットダウンして交感神経を鎮めれば良い。少し早歩きで横隔膜を素早く動かした後に瞑想して深呼吸で副交感を立ち上げれればさらに効果は増強する。

 西洋薬で交感神経をブロックするより、副交感神経を強めて自律神経シーソーのバランスを制御する。いつもの痛みに鎮痛薬を飲むのは、少し体を動かしてからでも遅くない。

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